Ferrofluid
Technical Information
磁性流体のさらなる進化を追求する「基礎開発」、将来に向けた新たな技術を模索する大学との「学術交流」、アプリケーションで求められる特性を追求する「製品開発」など、幅広い研究開発活動を積極的に推進しています。
構成・成分
磁性粒⼦
粒子径が10nm(100A)程度の磁性超微粒子(酸化鉄)が使われています。
界面活性剤
粒子表面に界面活性剤を吸着させることで、ベース液体(分散媒)中の粒子は凝集することなく、安定したコロイド溶液(磁性流体)となります。
ベース液体(分散媒)
磁性流体が応用される用途、また使用される環境を考慮し、水、炭化水素系油、エステル系油、フッ素系油などをベース液体(分散媒)として使用しています。
磁性流体の磁気特性
磁性流体には磁性のナノ粒子が含まれており、ブラウン運動でその磁化の向きがランダムに反転します。そのため、磁性流体は磁界がゼロの時は磁性のない単なる液体ですが、マグネットなど外部から磁界を作用させることで磁化します。しかし、マグネットを遠ざける(外部磁界を取り除く)と、磁性流体の磁化は再び消滅します。このような磁気的性質を「超常磁性」といいます。磁性流体は、残留磁化およびヒステリシスといった特性を持ちません。
また、磁性流体の磁化は、単位体積あたりの磁性流体中に含有される磁性粒子の量に比例し、外部から印加された磁界によって磁化が飽和した値を飽和磁化値と呼びます。
磁性流体から得られる効果
磁性流体を充填したスピーカーを従来のスピーカーと較べると、次のような良い効果が得られます。
最大許容入力の向上(放熱効果)
スピーカーの最大許容入力は、ほとんどの場合ボイスコイルの耐熱特性により決定されていますが、空気の約6倍の熱伝導率を持つ磁性流体を使用することにより、ボイスコイルで発生した熱を効率よく磁気回路を通して外部へ逃がすことができるので、最大許容入力が従来の約2倍に向上します。また、ボイスコイル温度が低温に保たれる為、コイルの電気抵抗の上昇も防ぎます。
周波数特性の改善(ダンピング効果)
最低共振周波数foにおいて、インピーダンスピークが存在する為、周波数特性を悪化させる原因となりますが、磁性流体の粘性によるダンピング効果によりQ値が低下し、インピーダンスピークを低く抑えることができ、周波数特性が改善されます。
システムコストの低減
磁性流体の使用により、周波数応答を改善できる為、中・高音域に於いてクロスオーバーネットワーク用のチョークコイルが不要となり、コンデンサーのみでスムースなクロスオーバー特性が得られ、コストの低減につながります。
高調波歪の減少
磁性流体によるセンターリング効果は、ボイスコイルをギャップ部中央に安定させ、ボイスコイルとポールピースの摩擦による断線事故をなくします。さらにダンピング効果との相乗作用により第2、第3次高調波歪を減少させることができます。
センタリング効果
磁性流体が非磁性材料へ及ぼすセンタリング効果を応用し、各種スピーカーの小型化・軽量化・高性能化が進んでいます。磁性流体による同作用に関する技術資料を紹介いたします。
磁性流体の注入量および選定について
磁性流体を適切に選択するには、スピーカーの特性と磁性流体の物性との関係を慎重に考える必要があります。その際に考慮すべき5つの重要なポイントは、①注入量、②粘度、③飽和磁化、④部材との両立性および⑤分散・耐熱安定性です。
注入量
スピーカーに対する磁性流体の適切な注入量は、エアーギャップとボイスコイルの寸法によって決まります。次の計算式に計測した寸法をあてはめると適切な注入量を求めることができます。
計算式
V[ml]= 56.5A[E²+C²-B²-D²]
計測単位がinch(インチ)の場合
V[ml]=0.0035A[E²+C²- B²-D²]
計測単位が全てmm(ミリメートル)の場合
計測箇所
A =トッププレートの厚さ
B =センターポールの半径
C =ボイスコイルの内径
D =ボイスコイルの外径
E =トッププレートの内径
体積管理ディスペンサーを使用することで、磁性流体の注入量の誤差許容範囲は±10%の最適な注入量が維持されます。適切な注入量を維持することは非常に重要で、ギャップに注入しすぎると過剰な磁性流体が漏れてくる可能性があります。また、注入量が少ないと十分な放熱効果が発揮されません。よって長期的な信頼性が失われ、期待するスピーカーの性能が出ない可能性があります。
粘度
磁性流体の注入量が決定したら、次は粘度を決めます。理想とするダンピングを考慮した磁性流体の粘度を選定します。
飽和磁化値
磁性流体の飽和磁化値は、スピーカーのエアーギャップの磁束密度やボイスコイルの振幅域に対してバランスが取れているべきです。ツイーターやコンプレッションドライバーは、エアーギャップ磁束密度が高く、コイルの振幅が小さいので磁性流体の飽和磁化値は、10-20mTの範囲となります。一方、ウーファーは、典型的にエアーギャップの磁束密度が低く、ボイスコイルの振幅が大きいため磁性流体の飽和磁化値は、30-40mT範囲となります。 一般的に高飽和磁化値の磁性流体の寿命は、高温下で使用すると短くなります。長期信頼性を確実にするためにも、適正量を使用することをお勧めします。